歯科受診勧奨は、保険者インセンティブの評価指標に含まれています。しかし実際に取り組んでいる健保組合はまだ少ないのが現状です。
「やった方がいいのはわかっている。でも何から手をつければいいのか」——そう感じている担当者に向けて、進め方の考え方を整理します。
1. 歯科受診勧奨に取り組むと、健保組合の財政にもメリットがあります
健保組合は毎年、後期高齢者医療制度に「支援金」を納めています。この支援金の額は固定ではなく、健保組合の予防・健康づくりへの取り組み状況によって最大10%増減する仕組みになっています。これが「保険者インセンティブ制度」です。
積極的に取り組んでいる健保組合は支援金が減額され、取り組みが少ない健保組合には加算(ペナルティ)が課される構造です。
評価される取り組みは複数の大項目に整理されており、その中に「歯科疾患対策」が含まれています。歯科受診勧奨はこの評価項目に該当する取り組みのひとつです。
つまり歯科受診勧奨は、被保険者の健康づくりという観点だけでなく、支援金の負担軽減につながる可能性がある施策として位置づけられます。担当者だけの判断で動きにくい場合でも、この財政的なメリットは決裁者への説明材料として使いやすいはずです。
参考:
2. 歯科が後回しになりやすい構造的な理由
健保組合の保健事業には、法律で定められた義務があります。特定健診・特定保健指導はその代表で、まずここに人手と予算が集中します。その後にメンタルヘルス対策、生活習慣病予防、ロコモ対策、女性特有の健康課題への支援など、取り組むべき施策が多岐にわたって並んでいます。
その中で歯科受診勧奨は任意事業のため、「やらなくても法的に問題ない」という位置づけになりやすいのではないでしょうか。担当者として重要性は認識しているけれど、優先順位がなかなか上がらない——それは構造的に起きやすい問題です。
保健事業の予算をどう優先順位づけするかについては、「健保の保健事業予算、優先順位の決め方とは?担当者が押さえるべき基本」で整理しています。
3. 国が義務化を検討するほど重要な分野だからこそ、今が動きどきです
2022年の閣議決定(骨太の方針)で、「生涯を通じた歯科健診の具体的な検討」が明記されました。国民皆歯科健診の導入に向けた議論は現在も続いており、歯科保健は国レベルで重要課題として位置づけられています。
任意事業だから後回し、という判断が通用しなくなる日が来るかもしれません。今から小さく始めておくことで、制度変化への備えにもなりますし、インセンティブ評価の実績としても積み上げられます。
参考:
4. 歯科受診勧奨の進め方:手段の選択から始める
歯科受診勧奨を進める手段は、大きく2つに分けられます。
まず始めやすいのは社内での啓発活動です。ポスター掲示や社内報・健診時のチラシ同封など、コストをかけずにすぐ動けます。「何もやっていない」状態から一歩踏み出すには十分な選択肢です。
次のステップとして検討したいのが外部プログラムの導入です。参加率・受診率・意識変化などのデータを記録できるため、データヘルス計画のPDCAに活用できます。保険者インセンティブの評価報告にも「取り組みの記録」として提出しやすくなります。
どちらから始めても間違いではありません。ただ、インセンティブ評価や次年度の予算取りにつなげたい場合は、早めに記録が残せる仕組みを持っておくと、担当者として動きやすくなります。
施策の参加率を高めるための設計については、「健保担当者が悩む参加率の壁:事業所経由の限界と担当者にできること」も参考にしてみてください。
仕組みを持った健保組合が、次の制度変化にも強い
歯科受診勧奨は、構造的に優先度が上がりにくい施策です。だからこそ、一度仕組みとして整えた健保組合だけが継続的な成果を出せます。
決裁者への説明材料(財政メリット)、始めやすい手段、記録の残し方——この3つが揃えば、担当者ひとりでも動き出せます。
LINEを使った口腔ケアの情報提供プログラム koko care も、そのような仕組みのひとつとしてご覧いただけると幸いです。

